碧草の風

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『小さいおうち』

『小さいおうち』 (中島京子 文春文庫)

昭和5年、山形から女中奉公のために東京にやってきたタキは、2度目の奉公先で若く美しい奥様、時子に出会う。
この本は、晩年のタキが、赤い三角屋根の洋館で暮らした時子たち家族との日々を回想する形で進み、回想記をたまたま読んだタキの甥の健史が、現代から戦前・戦中を見て、茶々を入れるという構成になっている。

私は、昭和のあの時代は、戦争の暗い影を背後に感じてしまい、あの時代を描いているということだけで、妙に哀しい雰囲気を感じてしまう。でも、あの時代を生きていた人々には、それなりの楽しみがあり、おいしいものを食べたりして、それなりに穏やかで幸せな日々を生きていたのだと、当たり前のことかもしれないけれど、後の時代を生きた人間が感じる世界と、その時代を生きた人々の思いとは、微妙に違うものなのだと、この本を読んで、あらためて気付かされた。

そして、感心したのは、作者の調査力!
ものすごい量の資料を調べたのだと思う。当時の行事や出来事などを、日常のなかにさりげなく散りばめていて、とてもリアルに感じた。1936年のベルリン・オリンピックの開幕時に、次回は東京と決められていたなんて知らなかった。タキのご主人の会社の玩具が売れるかもと期待したり、冬季オリンピックと東京オリンピックの違いに気づくまでの会話に笑わされたり、ほのかにユーモアもある。

タキが慕っていた時子の恋と、タキの思い。小さいおうちに秘められた謎。
「小さいおうち」のようにささやかだけれど、その中にあった幸せなひととき。
タキの回想のあとに、健史が登場するが、彼が時子の息子に会いに行くシーンがあるからこそ、タキと時子の姿がより印象的になったのだと思う。

山田洋次監督が映画化し、来年の1月に公開されるという。映画も楽しみだ。
by mint-de | 2013-09-13 16:17 | 私の本棚 | Trackback
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