碧草の風

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『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』

『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』 
(レイチェル・ジョイス 亀井よし子訳 講談社)

タイトルに興味がわき読んでみた。
なぜ、思いもよらなかったかは読むとわかるのだが、確かに普通ではあり得ない行動である。なにしろ、手紙をポストに投函するためにでかけたのに、そのままイングランドの南から北の町まで1000キロ余を歩いてしまうという話なのである。

定年退職して半年のある日、ハロルドのもとへ、会社のかつての同僚クウィーニーから手紙が届く。
彼女はがんでホスピスに入院していた。手紙でハロルドに別れを告げていたのだ。
クウィーニーは20年以上も前に会社をやめていて、ハロルドはその後の彼女のことは知らなかった。
一応、お見舞いの言葉をしたためたものの、ハロルドは、彼女が自分のためにしてくれたことを思うと、手紙を出すだけではすまないような気がした。そうして、手紙をポストに入れそびれ、先のポストへと歩いていくうちに、ある店員に出会い「信じる心があればなんとかなる」という言葉にハッと気づく。
自分が、クウィーニーの命を救うことを念じて歩いていけば、自分がたどりつくまでは生きていてほしいと願えば何とかなるかも…

靴はデッキシューズ、ケータイももたずリュックもない。それでもハロルドはそのまま歩きだしたのだ。
妻のモーリーンは驚き、あきれる。ただでさえ、息子のことで、夫婦仲は冷え切っていた。
だが、ハロルドが旅を続けるうちに、モーリーンの心に変化が起きてくる。夫の不在によって、夫の存在を思い知ったのだ。自分にはなくてはならない大切な人だということに気付いたのだ。
そして、ハロルドも歩き通したことで、過去からやっと立ち直ることができた。

彼は、最小限のモノしかもたずに旅を続けた。多分、作者は、生きていくために必要なモノは、それほど多くはないといいたいのだろう。歩きながら見える風景や植物、その土地で生きる人々に心を寄せながら、ハロルドはひたすら歩き続けた。
息子の件は、ラスト近くで明かされる。とても切ない。
だが、ハロルドとモーリーンのこれからは、明るい予感に満ちている。
ラストに印象的な言葉があった。
「そこだったんだよ、大事なのは。当たり前のことをいっただけなんだよ。なのに、あんなにおかしかったのは、きっとおれたちが幸せだったからだ」
by mint-de | 2013-10-08 15:15 | 私の本棚 | Trackback
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