碧草の風

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ひっそりとした幸福

悲しみのあとで  (ウンベルト・サバ 須賀敦子訳)
 
このパンには思い出の味がある、
港のどこより廃れて混みあった辺りの、
貧しい居酒屋で食べるこのパンには。

ビールの苦さがうれしい、
帰りがけに立ち寄って、
雲のかかった山々と灯台をまえにすわると。

苦悩にうちかったぼくのたましいは、
あたらしい目で、むかしの夕暮を眺め、
妊娠した妻といっしょに水先案内人など見ている。

それから、古びた木の部分が太陽に
ちかちかする、二本のマストとおなじくらい
背の高い煙突をつけた、船を。まるで、

二十年まえ、子供のときに描いた絵みたいな。
そのころ、手に入れるとは考えてもみなかった、
こんなうつくしい、甘い苦痛に満ちた人生、

こんなに、ひっそりとした幸福。



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by mint-de | 2007-09-22 15:03 | 詩と言葉から