碧草の風

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少年の選択

『おわりの雪』 (ユベール・マンガレリ 田久保麻理訳 白水社)

訳者あとがきでは「人生の美しさと哀しみが凝縮した小さな雪の結晶が、すこしずつ大地に降り積もっていくような重み」のある小説と表現している。
静謐で淡々とした文章で生と死を語り、父と子、少年と老人、欲望とそれと引き換えに失うもの、そういった対比が、切なく胸に迫ってくる。

ある日、店に売り出された、鳥籠に入ったトビを欲しいと思った少年は、家に帰ると、病気で寝たきりの父にその話をする。そして、トビ捕りの人にトビの捕まえ方を聞いたとウソをつき、自分で想像した物語を父に聞かせるのだ。そして、父は何度もその息子の作り話を聞きたいという。そこには、死を間近にした父と、父を見守る子の温かな絆が感じられる。

少年は、トビ欲しさに、残酷な仕事を引き受ける。しかし、その行為のあとで、父の言葉が慰めになる。

「むかし父さんも、あることを経験した。ふつうならつらいと感じるようなことだったが、おれはそうは感じなかった。だがその代わり、自分は独りだと、これ以上ないほど独りきりだと感じたんだ……」

そして、犬を連れて雪の中を歩いたときも、父からもらった革の長靴が、少年を雪の冷たさから守ってくれるのだ。

犬と丘を行くシーンは、ものすごく哀しい。何かを得るために何かを失う。それは、生きていくための理不尽な選択だ。そうして何かを捨て一つのものを選択する、それが大人になっていくということなのだろう。

読後は、降りしきる雪の中で物思いに沈みながら、いつまでもその余韻に浸っていたくなる、そんな小説だ。

作者のユベール・マンガレリは1956年フランス生まれ。海軍の経験がある。89年に児童文学でデビューし、99年から本格的な小説を書き始めたということだ。
by mint-de | 2007-09-25 12:51 | 私の本棚 | Trackback
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