村上春樹

『東京奇譚集』  (村上春樹 新潮社)

久し振りに村上春樹の小説を読んだ。エッセーは時々読んでいたが、小説は1988年発行の『ダンス・ダンス・ダンス』以来だから、かなり間があいてしまったが、初期のころの軽妙さに落ち着きが加わって、昔のように面白く読むことができた。
ただ、私はやはり『風の歌を聴け』が一番好きだ。あの新鮮な言葉がシャワーのように飛び散る、リズミカルな文体がとても気に入っている。この本の初版本をもっているということが、私のひそかな自慢である(^^)。

『東京奇譚集』は、誰がタイトルをつけたのかは知らないが、彼の小説は大体が奇譚ぽいので、わざわざこんなタイトルをつけなくてもいいのではないかと思う。5編の短編は、それぞれがとてもユニークで、「ムラカミ・ワールド」を堪能できる。

「偶然の旅人」は、ゲイの男がある女性と偶然知り合ったことから、疎遠だった姉との関係に変化が起きる話。偶然とは、必然の付録かもしれない(^^)。
「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです」(以下、色文字は私が気に入った文章)

「ハナレイ・ベイ」は、ハワイの海で息子を失った女性の話。女性は、喪失感を抱えながらも、人生に折り合いをつけ、好きなピアノを弾いて生きていく。
「打ち寄せる波の音と、アイアン・ツリーのそよぎのことを考える。貿易風に流される雲、大きく羽を広げて空を舞うアルバトロス。そしてそこで彼女を待っているはずのもののことを考える。彼女にとって今のところ、それ以外に思いめぐらすべきことはなにもない」

「どこであれそれが見つかりそうな場所で」 マンションの階段から忽然と姿を消した夫を捜してほしいという、妻の依頼を受けた男が、マンションの階段で調査をする話。26階分の階段を上り下りする人が本当にいるのかと疑問に思うが、階段を通る人との会話もおかしくて、この短編の中では、一番気に入った。
「私たちは日常的にものを考えます。私たちは決してものを考えるために生きているわけではありませんが、かといって生きるためにものを考えているというわけでもなさそうです。パスカルの説とは相反するようですが、私たちはあるときにはむしろ、自らを生きさせないことを目的としてものを考えているのかもしれません」

ほかに、「日々移動する腎臓のかたちをした石」、「品川猿」の2編。「品川猿」は、猿が言葉をしゃべるので、羊男を連想させる。私としては、猿より羊のほうがよかったなあ(笑)。
無駄のない平明な文章で、人生を見透かしている。私は、そこに一番魅力を感じている。
(2005年9月記)
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by mint-de | 2007-09-25 12:56 | 私の本棚 | Trackback

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