『ナイトホークス』 (ハリー・ボッシュ・シリーズ1)

『ナイトホークス』 (マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 扶桑社ミステリー)

このシリーズを何冊か読み終えてからこの第1作目を読み返すと、シリーズを通して貫かれているテーマが、最初から凝縮されてしっかり描きこまれていることに驚く。徹頭徹尾、被害者の側に立って捜査をするボッシュ。組織のイメージを一番に考える上層部との確執や困難な状況にあっても、おのれの信念のもとに行動するボッシュの姿勢は、最初から変わらない。

20年もたっているのに、未だにヴェトナムのトンネル工作兵時代の夢に悩まされるボッシュは、恐怖がつのったときに、電話のベルで目が覚める。マルホランド・ダム近くに死体があるという。現場に行くと、パイプの中の死体は、麻薬の過剰摂取が原因だと片付けられそうになるが、ボッシュは、パイプの中を一目見て殺人であることを見抜く。そして驚いたことに、その死体は、ボッシュがよく知っている男だった。ヴェトナムのトンネルで一緒に働いていた男だったのだ。その男を調べていくうちに、質屋、銀行強盗、ヴェトナムからの入国者と、捜査は広がっていく。
捜査の邪魔をする内務監査課とアーヴィングは、最初はちょっと滑稽に描かれている。

事件は解決するが、真実は、ボッシュにとってはとてもつらいものだった。トンネルの暗闇で経験した底知れぬ孤独感、ボッシュの心の奥深く、その思いは消えることはない。

捜査の過程で知り合った捜査官エレノア。彼女は5作目から再登場するが、彼女が部屋にかけていたエドワード・ホッパーの絵「夜ふかしをする人たち」が、この作品をとても印象深いものにしている。絵に描かれている都会の片隅に生きる孤独な人々。ボッシュもエレノアもその一人だ。

この作品の魅力は大きく分けて二つある。まず、新聞社の犯罪レポーターとして仕事をしてきたコナリーの経験が随所に生かされていて、捜査の手法や警察官の仕事ぶりがリアルに描かれ、まるでドキュメンタリーを見ているように生々しく迫ってくること。

もう一つは、孤独な刑事、ボッシュその人の魅力だ。不幸な子ども時代、ヴェトナムでの過酷な経験、エリート刑事からの転落。絶えず組織からはみだしながら、自分にかぶせられるおもしをものともせずに、事件を解決に導く不屈の精神力。加えて、推理力抜群の名探偵なボッシュでもある。
あと、ボッシュの家から見える街やフリーウェイ、山並みの眺めも印象的に描かれていて、私の好きなシーンの一つである。
by mint-de | 2007-09-25 13:39 | 私の本棚