碧草の風

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『目くらましの道』

『目くらましの道』 (ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 創元推理文庫)

スウェーデン人作家ヘニング・マンケルが描く、警部クルト・ヴァランダー・シリーズの5作目。シリーズの中では一番気に入った。

ヴァランダーは、スウェーデン南部の田舎町イースタ署の中年刑事だ。妻とは離婚し、離れて暮らす年老いた父を心配しながら、たまにやってくる娘の訪問を喜ぶ、ごく普通の父親でもある。福祉国家と呼ばれ、理想の国のイメージがあるスウェーデンでも、悲惨な事件は起こる。

今回のヴァランダーは、凄惨な死体を残す連続殺人犯を追いながら、畑で自分の目の前で焼身自殺した少女のことが、ずっと気になっている。そして、その殺人犯の事件と少女には接点があった。事件解決後のラスト、エピローグでは、その少女の父親が遠いドミニカからやってきたことに触れ、ヴァランダーの嘆きが語られる。

ヴァランダーは、この世界で起こる理解しがたい事件を目のあたりにして、いま生きている世界を理解することなど無理ではないかと心を痛める。暴力が不可欠な時代、不安な未来。出口のない暗闇を歩いているような気分のなかでも、生きてまた警官としての職務に誠実であろうとする。彼の痛みは、いまこの時代の痛みでもあると思う。読むのが楽しみなシリーズだ。
by mint-de | 2008-01-12 13:03 | 私の本棚 | Trackback
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