カテゴリ:私の本棚( 76 )

『特捜部Q ーPからのメッセージー』

『特捜部Q ーPからのメッセージー』 
(ユッシ・エーズラ・オールスン 吉田薫・福原美穂子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

前作は期待外れだったけれど、これは面白かった!
助けを求めて、少年は自らの血で手紙を書いた。それを瓶に入れて海へ。
果たして、その瓶を誰かが手にすることはあるのだろうか?
冒頭から気になる展開で、どんどん引き込まれていった。
冷酷な犯人は、かなり気味が悪い。でも、彼がどうしてそういう人間になってしまったのかが細かく描かれているので、ラストの「チャップリンだ」と名乗るシーンには哀れさが漂う。
宗教とか信仰心についても考えてしまう。
スリリングな展開ながら、警部補カールと、彼を取り巻く人々との絡みはユーモアたっぷりで、このギャップが不思議な魅力になっている。
それにしても強烈なキャラ揃いで、離婚したがらない妻のヴィガや、仕事は優秀だけれど謎めいている助手のアサドと個性的なローセなど、ものすごい人たちが登場する。
中でも驚いたのが、ローセ!
姉ユアサの行動は疑問だったが、結局そうだったのかということになるのだけれど、カールもアサドも実に寛容だ。
人物描写も巧みで、上手い作家だなあとつくづく思う。
翻訳もとても読みやすく、こちらの上手さにも感心した。
by mint-de | 2012-08-30 15:43 | 私の本棚 | Trackback

『萩を揺らす雨』

『萩を揺らす雨』 (吉永南央 文春文庫)

日本の作家の作品はあまり読んでいないのだが、最近読んだこの小説は気に入った。
主人公は75歳のおばあちゃん探偵、杉浦草。
大きな観音様が見下ろす町、紅雲町で和食器とコーヒー豆を商う「小蔵屋」を営んでいる。
いつも和服を着て、黒い蝙蝠傘を杖代わりにして散歩をする。
お店では一杯だけコーヒーを試飲できるので、ただでコーヒーを飲めることをあてにしてやってくる客もいる。
草は、そういう客たちの話からいろいろな情報を得て、探偵のような行動をしてしまう。
お節介で、正義感が強いけれど、決してベタベタした人情家ではない。
ある意味、とてもクールで芯の強い女性だ。魅力的なおばあちゃんである。
助けが必要な人には、躊躇することなく手を差し伸べる。
人間への優しさに満ちた小説だと思う。
無料のコーヒーサービスというところに、草の人柄が表されているような気がする。
「紅雲町珈琲屋こよみ」としてシリーズ第2弾も出ているので、早速読んでみようと思う。
by mint-de | 2012-06-08 11:38 | 私の本棚 | Trackback

『ねじれた文字、ねじれた路』

『ねじれた文字、ねじれた路』 (トム・フランクリン 伏見威蕃訳 ハヤカワ・ミステリ)

少年時代の抒情的な描写に、しみじみとした余韻を感じるミステリだ。
ホラー小説が好きな内気なラリー(白人)と、野球が得意なサイラス(黒人)。
少年時代に友人として過ごした楽しい日々。
だが、あることでその友情の絆は消えてしまう。
それから25年後、自動車整備士のラリーは何者かに撃たれた。
治安官の仕事をするサイラスは、ずっと会っていなかったラリーの「異変」に気付く。
それから、二人の路は、また交わることになったのだが…

ラリーは、ある事件の容疑者となってから、ずっと周囲から除け者にされてきた。
孤独に生きてきたラリーだが、自暴自棄にもならず、諦念のような気持ちをもって生きている。
もしもサイラスがもっと前に真実を話していたら、ラリーの人生は違ったものになっただろう。
ラリーの描写にはやるせなさが募り、この小説を印象深いものにしている。
彼らの今後を、ミステリとしてではなく普通の小説として読んでみたい、そんな風に思える作品だ。
by mint-de | 2012-04-13 16:02 | 私の本棚 | Trackback

『ロスト・シティ・レディオ』

『ロスト・シティ・レディオ』 (ダニエル・アラルコン 藤井 光訳 新潮社) 

戦争がもたらすもの、国家とは何かを、深く考えさせられる小説だ。
現在と過去が交錯しながら語られるので、まるでジグソーパズルのピースをあちこちに埋めながら読んでいるような気分になる。そういう構成が謎を深め、独特の緊張感を生んでいると思う。

内戦が終わってから10年後のある国家の首都。
ノーラはラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」のパーソナリティーだ。
行方不明者を探すその番組で、ノーラは不明者に呼びかけ、幾組もの感動の再会があった。
ラジオから流れるノーラの声は、国民に愛されていた。
ある日、ラジオ局にジャングルの1797村から、行方不明者のリストをもったビクトルという少年がやってくる。
そのリストには、消息を絶ったノーラの夫レイの名があった。
不法集団ILの犯罪者として弾劾されている夫は、一体何をしていたのか?
その日から、ノーラはビクトルと共に過ごすことになった…

謎めいたレイの過去。レイは何を求めていたのか?
人民の平和を求めて戦った、その戦いとは何なのだろう?
意志した者、ただ巻き添えをくらった者。
犠牲にしたもの、失ったもの、得たものはあったのか?
国家とは、人民を傷つけるために存在するのではないかと思えるようなやるせなさ。
それでも、人々はささやかな日常を生きていくのだ。
クールな文体がより寂寥感を増しているように思った。

5年前の作品だが、作者は30歳でこの作品を完成させたのだ。
その力量と才能には驚くばかり。今後が楽しみだ。
by mint-de | 2012-04-04 21:40 | 私の本棚 | Trackback

『空白の五マイル』

『空白の五マイル』 (角幡唯介 集英社)

ミステリのような味わいもあり、面白い冒険の記録だった。
著者は大学の探検部に所属していたとき、チベットの探検史を読んで、謎に満ちたツアンポー川のことを知る。ツアンポー川はアジア有数の大河で、昔はヒマラヤの山に挟まれた峡谷の大屈曲部が山に消えてしまうため、川の全容がつかめないでいた。
探険家たちによって解明されてはきたが、地理的にあまりにも険しく、まだ踏破されていない部分がある。そして大滝が存在するするかもしれないという伝説。
探検がしたいと渇望していた著者は、このツアンポー峡谷の謎に魅せられ、ここを探検することが人生の目的になった。
この本は、大学を卒業してから単独で人跡未踏の五マイルを踏破した記録と、その6年後に会社を辞めてまたでかけた、目的を果たせなかった冒険の記録でもある。
著者は、「命の危険があるからこそ冒険に意味がある」と語る。何度も死にそうな目にあいながら、生きるか死ぬかという瀬戸際に、生きる意味がわかるような気がするという。
私は、そこまでして生きる意味を求めようとは思わないけれど、未知のものを見たい知りたいという気持ちが、死をも恐れない好奇心となってその人を突き動かし、実際に行動してしまう人には、淡い憧れがある。
自らの考えと行動がすべて。誰にも頼れない場所で懸命に道を探し、死なないために歩き続ける。
とても悲壮だけれど、高貴な人間の姿にも思える。
もっとも、単独といっても現地の人の協力があったのとない場合で、ずいぶん違った結果になった。すべてを一人でやり遂げるというのは、難しいことなのだろう。
あえて危険な場所に挑む冒険の記録は読んでいて面白いが、くれぐれも命を大切にして行動していただきたいと思う。
by mint-de | 2012-01-24 14:31 | 私の本棚 | Trackback

『真鍮の評決』

『真鍮の評決』 (マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 講談社文庫)

弁護士ミッキー・ハラー・シリーズの2作目。
前作のハラー弁護士にはボッシュ刑事のような魅力を感じず、内容そのものにもあまり感情移入できなかったが、今回は、ハラーがこういう人なんだと割り切ることができ、加えてボッシュがゲスト出演していることもあって、前作より面白く読むことができた。
怪我がもとで休業していたハラーが復帰して取り組むことになったのは、世間から注目を浴びていた映画会社のオーナーが被告の事件。ハラーと親しかった弁護士の事件だったが、その弁護士が殺害されたことからハラーに仕事が回ってきたのだ。
オーナーは妻と愛人を殺したとして起訴されていたが一貫して否認している。オーナーは犯人ではないのか、弁護士を殺害したのは誰なのかという謎と、裁判制度への疑問も浮かび上がらせる展開。
日本でも裁判員制度が始まったが、日本の場合は、裁判員候補者と面接するのは裁判長だけらしいが、アメリカの陪審員は、裁判官のほか検察官、弁護士も同席して、それぞれ自分たちにとって不利な判断をしそうな人を何人か除外できるという。
人を裁くには、まず裁く人を選択しなければならない。そこからもう裁判は始まっているのだ。すべては陪審員の気持ち次第という裁判。弁護士も検察官も陪審員の心証をよくすることに懸命になる。
弁護士は被告人の利益だけを考える。ハラーは金のために。でも、「悪い人たちを助けている」という娘の言葉が、ハラーの胸に突き刺さる。
結果的には、ハラーの行動が罪を犯した者に相応の報いを受けさせることになる。
「真鍮の評決」とは自警行為の殺人をいうのだそう。
罪を犯しても裁判で無罪になった者に対しては、被害者側からすると真鍮の評決をしたくなるかもしれない。人が人を裁くということは、本当に難しいことだと思う。
by mint-de | 2012-01-21 14:31 | 私の本棚 | Trackback

『解錠師』

『解錠師』 (スティーヴ・ハミルトン 越前敏弥訳 ハヤカワ・ミステリ)

鍵を開けることに興味をもった少年マイクルは、その「才能」を見出されたがために、危険な仕事を請け負うはめになる。
金庫破りのミステリではあるが、全編を貫くマイクルが愛するアメリアへの一途な思いと、その純粋さに共感してしまう青春小説といった味わいもある。
金庫破りのシーンはスリリングだが、解錠の仕組みを説明されるくだりには興味がないのでちょっと閉口した。こんな人がいると思うと、鍵をかけても安心はできないと不安になった。

マイクルは8歳のときの事件がもとで、話をすることができなくなった。
伯父に引き取られたマイクルはあるときから錠を開けることに夢中になる。
そして他人の前でその「技」を披露してから、とんでもない道に引きずりこまれることになる。ただ、そこには新たな出会いもあった。
しゃべれないマイクルの沈黙と、マイクルとアメリアが心を通わせる手段となる絵や漫画。言葉はなくとも通じ合うことはできるのだ。マイクルがずっと探していた彼の心を開く鍵は、アメリアがもっていたのだ。
軽快なテンポで、解錠師になる前とその後のシーンが交互に語られる構成も面白かった。
by mint-de | 2012-01-13 13:33 | 私の本棚 | Trackback

『シモネッタのドラゴン姥桜』

『シモネッタのドラゴン姥桜』 (田丸公美子 文藝春秋)

イタリア語の通訳・翻訳業が専門の田丸さんのエッセー。
ユーモアたっぷりの語り口でいろいろ本を出されているが、私が初めて読んだのがこの本。
一人息子の誕生から巣立ちまでを、明るく笑わせながらしみじみと綴っている。
仕事が忙しい田丸さんは、「放任に近い子育て」とおっしゃっているが、開成から東大を経て弁護士になった息子さんの成長の記録を読んでいると、田丸さんの寛容さと息子さんの優しさが感じられて、とてもいい親子関係でちょっとうらやましい。
それにしてもこんなに赤裸々に自分のことを語られたら息子さんも困るのではないかと思うのだけれど、中学や高校に通う子どもさんをお持ちの親御さんにとっては、とても参考になる本だと思う。
異性とのつきあいや学校生活、私だったら頭を抱えそうになることを、田丸さんは実に大きな心で受け止めている。漫才の掛け合いみたいな会話ができる母と息子。それでも、子どもはいつか親元を離れていく。
一人暮らしをするために家を去った息子の部屋で、息子が誕生してからの日々を回想して感謝の言葉を口にする田丸さんの姿に、私は一抹の寂しさを感じたのだった。
親って何だろう?
子どもに教えることはいっぱいあったけれど、子どもからもいろんな意味で学んでいるような気もする。
by mint-de | 2011-09-30 20:47 | 私の本棚 | Trackback

『ジーノの家』

『ジーノの家 イタリア10景』 (内田洋子 文藝春秋)

イタリアに長く住む著者が出会った印象的な人々の物語。
エッセーでありながら、描かれた人々の話がまさに十人十色で小説を読んでいるような味わいがある。
貧しい暮らしながら父の望む教師になった男、十字を切ればすべて意のままになると確信している強引だけれど心優しいシスター、異国の地でたくましく生きる女性、定年後に帆船に恋した男のロマン。
登場人物たちが生き生きと描かれ、その人生の背景に思いを馳せたくなる作品になっている。
内田さんはあとがきで「名も無い人たちの日常は、どこに紹介されることもない。無数の普通の生活に、イタリアの真の魅力がある」と書いている。
普段見かける人々の様子を「生活便利帳を繰るようであり、秀逸な短編映画の数々を鑑賞するようでもある」とも書いていて、私は、自分の周囲の人々をそんな風に捉えられる内田さんを素敵な方だなと思った。
by mint-de | 2011-09-24 20:57 | 私の本棚 | Trackback

『特捜部Q -檻の中の女―』

『特捜部Q -檻の中の女―』 
    (ユッシ・エーズラ・オールスン 吉田奈保子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

デンマークのミステリ。ユーモアたっぷりで面白かった。
事件そのものは陰惨なのだが、主人公の警部補カールと助手のシリア人アサド、そのコンビの描写がとても軽妙で、思わず笑ってしまうミステリなのだ。
大体、カールその人が不思議な男。別居中の妻に愛人がいても、妻が離婚に応じないのでそのままの関係が続き、お金も援助している。彼女の息子が母といたくないという理由でカールの家にいるのだが、その義理の息子は母同様勝手気まま。カールは、それなりに不平をいいつつも、そういう関係を改善しようとは思っていない様子。
なおかつ、カールはとても頑固者。ある事件がもとで、新設の過去の未解決事件を解明すべくできた「特捜部Q」に左遷のような形で配属されたものの、警部になるのは嫌なので、上司の命令を聞かずあくまでもマイペースで仕事を進める。助手のアサドは謎の部分が残っているのだが、名探偵ホームズ並みの推理力でカールの仕事を助ける。

カールの特捜部の初仕事は、5年前に失踪した女性議員ミレーデ・ルンゴーの事件。
読者は、監禁されているミレーデ自身を最初から知ることになるのだが、とんでもない状況にいる彼女なのだが、その強い精神力には驚かされる。
米・英のミステリとは違った味わいで、暗さを感じさせない小説だ。4作目まで出版されているというこのシリーズ、今後も楽しみだ。
by mint-de | 2011-08-07 09:20 | 私の本棚 | Trackback

見たり聞いたり、日々思うことをあれこれと…


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