碧草の風

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カテゴリ:私の本棚( 75 )

『ラスト・チャイルド』

『ラスト・チャイルド』 (ジョン・ハート 東野さやか訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

感動的なミステリ小説だ。
失踪した妹を捜す少年の一途な思いと孤独感に、全編に漂う切なさに、胸打たれる。

ジョニーは13歳。双子の妹アリッサは1年前から行方不明だ。母キャサリンはアリッサの失踪を、娘を迎えにいかなかった父のせいだと父を責め続け、その後父も突然姿を消した。生きる気力をなくしたキャサリンは、酒と薬に溺れ、町一番の実業家の愛人になってしまう。ジョニーは、昔の幸せな家族の再生を願い、母が薬をやめることを願い、ジョニーに暴力を振るう母の愛人が死ぬことを願った。
ある日、ジョニーは、橋から転落する男を目撃し、その男が瀕死の状態で、連れ去られたあの子どもを見つけたという言葉を聞く。それが妹のことだと確信したジョニーは、一人で捜す決意をする。
母が信じていた神はなにもしてくれない、周りの大人も刑事も役立たずだ。ただひとつジョニーが信じていたもの、それは黒人とインディアンの混血の奴隷を解放するために尽力した彼の高祖父だった。

ジョニーが偶然出会った黒人の巨人フリーマントルが、解放された奴隷の子孫で、最後にジョニーを助けるシーンは、「奇跡」といっていい。フリーマントルという「自由な外套」を意味する名のように、彼は不思議な力をもった人間として描かれている。「神の力」については、私にはよくわからないけれど、理不尽な出来事に翻弄されてやりきれない思いをすることがあっても、「奇跡」のように救われたり、幸せを感じることはできる。ジョニーが親友だと信じていた友に裏切られても、また親友だといういうことができたように。

ずっとアリッサの事件を捜査している刑事ハントの優しさも、印象的だ。捜査にのめりこみすぎていると仲間に忠告されても、アリッサの無垢な美しさに打たれたのか、キャサリンへの思いからか、ハントは、異常なまでにジョニーと母の面倒を見たがる。ハントの家族もバラバラなのに…。
再生への予感に満ちたラストもよかった。
by mint-de | 2010-04-13 10:40 | 私の本棚 | Trackback

『ブルー・ヘヴン』

『ブルー・ヘヴン』(C・J・ボックス 真崎義博訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
著者の猟区管理官ジョー・ピケットを主人公にしたシリーズ(講談社文庫)の最初の作品『沈黙の森』は、読み始めたもののそのまま積ん読状態だけれど、この本は、先が気になる展開で一気読み。

ノース・アイダホには、ロサンゼルス市警を退職した警官が多く住み、彼らはその地を「ブルー・ヘヴン」と呼んでいた。
12歳のアニーは、母と弟と3人で暮らしている。ある日、アニーは弟と釣りにでかけた。そこで偶然、殺人を目撃してしまう。殺人者たちは、アニーたちに見られたことを知り、ふたりを追いかける。必死に逃げるふたり。そしてアニーと弟は行方不明になる。
小さな町では、皆がふたりを心配し、保安官のもとへ捜査の協力を申し出る。その中でも特に熱心な退職した4人の元警官たち。彼らこそが殺人者たちだったのだ。他の人間がふたりを見つける前に捜しだそうと、必死だったのだ。そして、8年前に起きた現金強奪と殺人事件のことを調べる元刑事。アニーたちを助ける老牧場主。それぞれの登場人物の立場で物語が進行して、徐々にクライマックスに向かう手法がとてもスリリングで面白かった。西部劇のヒーローを連想させる牧場主や元刑事の人物像も魅力的。

映画化権が売れているそうで、牧場主役は誰が適役かというアンケートもあるのだそう。私が真っ先に思い浮かべたのは、クリント・イーストウッド。でも、ちょっと年を取りすぎているかな。ストーリーがわかっていても、映画も見てみたいと思える作品だ。
by mint-de | 2010-04-09 21:02 | 私の本棚 | Trackback

『ミレニアム2 火と戯れる女』

『ミレニアム2 火と戯れる女』
(スティ-グ・ラーソン 訳ヘレンハルメ美穂・山田美明 早川書房)
面白い!
話題のミレニアム・シリーズの2を読んだ。1は買って読んだけれど、3まであってそれぞれ上下2巻で、一冊1600円くらいだから、全巻買うと1万円くらいになる。とてもそういう余裕はないので(^^;)、2以降は図書館で予約。やっと2の順番がきた。
私は1より2のほうが面白かった。1では、冒頭から主人公のミカエルが関わることになるヴァンゲル一族の話がでるまでは興味がわかず、買ったのが失敗だと思ったほど。
リスベットが絡んでくるころから、面白くなってきたけれど。
2の面白さは、リスベットの魅力につきるだろう。
天才ハッカーで詐欺女、そして、自分に危害を加えようとする者には容赦しない暴力女。
とことん追い込まれても、決して他人には頼らず、自分で解決しようとするスーパーヒーロー的なところが、読者の心に共感を呼ぶのかもしれない。
リスベットは「女を憎む男を憎む女」という表現がされているけれど、この本のテーマは、そのあたりにもあるのかも。
それにしても、パソコンって、自分だけのものだと思っていたけれど、誰かがどこかでのぞいているかもしれないのだね。怖っ!
次の展開が気になるストーリーで、一気に読ませる手腕には感心するばかり。
作者の方がもう亡くなっているのが、とても残念だ!
by mint-de | 2010-04-03 09:56 | 私の本棚 | Trackback

『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 2』

『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 2』 灼熱の赤道直下から白夜のアラスカへ 
(関野吉晴 角川文庫)

1995年8月、関野さんはクスコから再び自転車に乗り、アラスカを目指す。
今回は、犬と衝突したはずみで自転車ごと転倒し、それがもとで脱腸になってしまい、途中で帰国せざるを得なくなったり、強盗にあってしまったりと、いろいろな出来事に遭遇しながらも無事にアラスカへ。
関野さんは本来のルートを旅することとは別に、近くの興味のある場所へもでかけていくのだが(そのときは飛行機や車を使う)、今回印象に残ったのは、関野さんが会ったリゴベルタ・メンチュウさんの言葉。彼女は、1992年に新大陸で始めてノーベル平和賞を受賞したグアテマラの女性だ。
「他の文化から何かを得ようとするのは、間違いではないでしょうか。まず大切なのは、自分の属する文化の伝統に従って生きることです。自分たちの文化を見つめなおせば、そこに学ぶべきことはたくさんあるはずです。自分たちの伝統文化を忘れて、他の文化から何かを学んでもほとんど意味がありません」
自分達の固有の価値観を知った上で、相手の文化を理解する。そこから異文化間の交流が生まれるといっている。世界の指導者たちが、みんなこんな風に考えていたら、戦争なんて起きないかもしれない。

原始の地球のイメージそのままのギアナ高地、独自の伝統文化の中で生きる先住民族ヤノマミの人々、アメリカで最も人口の多い先住民族ナバホの居留地での暮らしぶりなど、今回も「へぇ~」と驚く話がいっぱいで、面白かった!
by mint-de | 2010-03-15 14:23 | 私の本棚 | Trackback

『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 2』 

『グレートジャーニー 人類5万キロの旅 2』 嵐の大地パタゴニアからチチカカ湖へ 
(関野吉晴 角川文庫)

世の中には、そこまでするのかと驚かされる人がいるものだが、この関野さんもそういう一人だ。とにかく、自分の脚力と腕力だけを頼りに、太古の人々が歩いた長い旅路をたどろうと思い立つのである。
グレートジャーニーとは、アフリカに誕生した人類の祖先が、南米の最南端までたどりついた旅のこと。
関野さんは、その旅路を逆からたどろうと、1993年に出発した。
あるときは歩き、あるときは自転車で、そして、スキーやカヤックを使い、風や土ぼこりや雨のしずくなど、自然をそのまま肌に感じながら、旅をする。強風、危険な氷河、高山病。過酷な状況にもひるむことなく旅を続ける関野さんには、「すごい!」という言葉しかでてこない。
多くの人が目にしたことのない大自然や、現代社会に生きる人間には想像もできない生活をしている人々。
地球上には、いろんな民族がいる。
この本を読んでいると、自分がいかに狭い世界で生きているのかがわかる。
まだ最初の1巻。
これからアフリカにたどりつくまで、どんな世界が待っているのだろう。
続きを読むのが楽しみだ。
by mint-de | 2010-03-04 14:35 | 私の本棚 | Trackback

『ひとり暮らし』から

谷川俊太郎の『ひとり暮らし』(新潮文庫)を読んでいて、「惚けた母からの手紙」に、ちょっと驚いた。
谷川さんは、「母が一貫して父への愛に生きた人であることが痛いほどわかる」と書かれている。
ご両親の結婚前の往復書簡をまとめた『母の恋文』という本を出されているから、お母さんのお父さんへの愛については、よく知られている話なのだろう。
お父さんは哲学者の谷川徹三だが、外に女の人がいたこともあったらしい。
お母さんは、老いて惚けてからも、この裏切られた記憶に苦しんでいたという。
ときどき、谷川さんの机の上にそのお母さんが書いたメモのようなものが残されていて、その一部が載っているのだが、悟るべき年の人がこんな風に鬱々と悩んでいたなんて、ものすごく可哀相だなあと思うと同時に、その情熱のようなものに驚いた。
そのメモに返事を書いたお父さんのものも載っている。
「世界中で私の最も愛しているのはあなただ、その愛を疑うなんて」と。
ウ~ン、何だかすごい「愛の物語」を感じてしまう。
谷川さんご自身は、三度の結婚、離婚を経て今はひとり暮らしをされている。
誰にも気兼ねする必要のないひとり暮らしが気楽でいいと語っている。
ご両親の話を読んでいると、愛ゆえに悩むより、老後は、ひとり暮らしのほうがラクな気はするな。
by mint-de | 2010-02-11 19:16 | 私の本棚

『武士の娘』

『武士の娘』 (杉本鉞子著 大岩美代訳 ちくま文庫)
ある本に、『武士の娘』という本の紹介があった。越後・長岡藩の家老の家に生まれた娘(明治6年生まれなので、正確には武士だった人の娘ということになる)が、明治時代にアメリカに住む日本人と結婚し、自分が育った長岡や結婚後に住んだアメリカでの生活を綴った本で、1925年にアメリカで出版後、7か国語に翻訳された本だという。
そんな昔に、世界中で読まれる本を書いた女性がいたなんて、全然知らなかった!(私が無知だっただけ?)
読んでみたいと思っていたら、偶然、本屋さんでこの本を発見! 
早速、読み始めた。とても面白かった。

厳しくしつけられた鉞子(えつこ)さんの生活態度やお言葉に、読んでいるほうも身がひきしまる思い(^^)。
彼女は日本の古い伝統や風習を守りながらも、異国のアメリカではその風習や環境の違いにも臆することなく順応できた女性だった。人種や国の違いはあっても、人は理解しようと思えば理解できる、そういうこともおっしゃっている。当時の日本の様子や女性が何を考えているのかという物珍しい気持ちが、世界の人々の興味を誘ったのだろうが、彼女の広いものの見方も、世界の人々に受け入れられたのだと思う。

この本は英語で書かれたものを、別の方が、彼女の指導を受けながら翻訳されたものだが、その奥ゆかしい文章も魅力的である。
彼女の子ども時代、勉強しているときには、安逸を求めてはならないということで、雪の降る日に火の気のないところにいて、冷たくなった手を女中さんが雪で暖めてくれた話や、武士の娘は、寝る時には、「きの字」になって寝る(犬が四足を投げ出して横になるスタイルかな?)とか、現代人の私には「へぇ~」と驚くことばかり。
また、幕府側で戦った長岡藩の最後の頃の様子や、その後の困窮した生活ぶり(といっても爺やや女中さんがそのままいたのだから、結構裕福だったのだろうな)、維新後の人々の日常も興味深かった。

祖先を敬い、年中行事を心をこめてこなし、昔からの教えに忠実に生きてきた人々。
鉞子さんは、そういう日本に愛着をもちながらも、子どもの教育のために、一度日本に帰国後またアメリカへ渡るのである。

あの時代にあって、彼女は日本人の慎ましさとアメリカ人の自由な精神を、その身に受け入れることができた女性だったのだ。彼女は、「温故知新」や「郷に入っては郷に従え」という格言を、身をもって実践した人のように思える。
by mint-de | 2010-01-24 13:34 | 私の本棚 | Trackback

『キリンの涙』

アレグザンダー・マコール・スミスのミス・ラモツエの事件簿2『キリンの涙』(ヴィレッジブックス)を読んだ。
アフリカ・ボツワナを舞台にした女探偵マ・ラモツエが活躍するシリーズもの。明るい探偵小説である。アフリカが舞台の女探偵という設定に興味をもって読んだ。
楽しい小説だったけれど、私は、このタイトルの「キリンの涙」がとても気になった。
何でも、ボツワナでは古くから伝わる、模様を編みこんだカゴがある。その模様に「キリンの涙」が編みこまれたものがあるという。ナゼ、キリンの涙?
作者は、人は何かを贈ることができるけれど、キリンにはあげるものが何もないので、涙しかあげられなかったと書いている。
なんだか、とても深い話である。
人が動物にしてあげることにたいしての、感謝の涙なのか、それとも悲しみの涙なのか?
それに、あの長い首の上から流す涙は、どうやって落ちてくる?
ネットで調べたら、「シマウマの額」というのもあった。勝手にネーミングしているだけかもしれないが、ライオンやカバや犬ではなく、「キリンの涙」に、私は詩的な響きを感じてしまうのである(^^)
by mint-de | 2009-11-05 23:02 | 私の本棚

『阿弥陀堂だより』

『阿弥陀堂だより』 (南木佳士 文春文庫)
久し振りに南木さんの本を何冊か読んだ。
南木さんは芥川賞を受賞後、体調をくずされたそうだが、そのときの体験をもとに書かれたのがこの小説だ。
医者として何百人もの病人の死を見つめ続けた結果、精神的に追い込まれてしまったという。
小説では、美智子という女医が病気になり、都会の病院から夫の育った田舎の村に越してきて、その村の自然や村で暮らす人々と触れ合うことで、癒やされていく様子が描かれている。
南木さんのエッセーで、「人は実にあっけなく死ぬ」というような一文に触れ、お医者さんにそういわれたら、なんかもうしょうがないなあと思った私。
この本でも、おうめ婆さんが、端的な言葉で人生を語ってくれる。
気に病んでいてもしょうがない。人生、なるようにしかならない。
肩肘はって生きないほうがいい。
体が故障しても、気持ちまで病気になるな。
実に警句に満ちた言葉が、素朴に語られている。
「死」をどうとらえるかは、難しいことだけれど、おうめ婆さんのように恬淡の境地になれたらいいよね。
by mint-de | 2009-09-12 14:21 | 私の本棚 | Trackback

『1Q84』 

『1Q84』 (村上春樹 新潮社)
久し振りに読んだ村上春樹の長編は、おばさんの脳内細胞を活性化してくれた。
リトル・ピープルがつくる空気さなぎ、二つの月、1984年じゃなくて1Q84年など、いろいろ想像をたくましくしないと、『1Q84』の世界には、ついていけないのである。
面白そうなものがあるから、その先まで走ってみてこようといわれ、必死についていったおばさんは、結局、そこに面白いものがあったのかどうか、わからなかったというのが、正直な感想だったりする(^^;)
もちろん、簡潔な文体や的確で詩的な比喩は、気に入っている。
その物語の世界に浸っているぶんには、とても心地よい。
いろんなことを教えられて(ギリヤーク人の話とか哲学者の言葉とか)、頭脳に新鮮な空気がもたらされた気分でもある。それって、面白かったということなのかな(^^)

「青豆の話」は、天吾が書き始めた小説の世界かなと思ったりしたのだけれど(BOOK1の550ページ終わりの4行)、そう思ったのは私だけ?
青豆が宗教団体のリーダーを別の世界に送り込む前に、いろいろ話をするけれど、それがあまりにも説明的でリーダーが語りすぎだったのが気になったのと、青豆が殺す相手の話をそんな風に聞くだろうかとか、天吾が認知症の父親に本当の父親のことを聞くのは、それは無理だろうとか、疑問に思った所もあったけれど、そんなことはどうでもいいことなのかも…。

善悪のバランス、人間とそのかげ、今ある世界と別の世界など、もろくて境界のあいまいな世界を生きているという感覚は、とても不安で切ないものだ。何もかもが不確かな世界では、何を信じて生きていけばよいのだろう? ここでは、人を愛する心があれば、一応生きていけるといっている。
天吾が20年も前に手を握った青豆の手の温もりを、ずっと忘れなかったように、愛する心を持ち続けていれば、人は生きていける、らしい…。
by mint-de | 2009-06-09 20:45 | 私の本棚 | Trackback