『琥珀のまたたき』

『琥珀のまたたき』 (小川洋子 講談社)


切なさに満ちた幻想的な小説だ。
母親から、壁の外に出てはいけないといわれた3人の姉(オパール)と弟(琥珀、瑪瑙)。
末娘の死を受け入れられない母親は、娘の死を魔犬に襲われたせいだという。その話を聞かされた姉弟たちは、家の敷地から出ることを禁じられる。
母親が仕事に出かけると、3人は父が残した図鑑から社会を学び、庭で遊びながら自然に触れる。奇妙な生活だが、3人はそれなりに日々を生きていくのだ。
限られた空間を、想像力を使ってきらめく一瞬にする。
琥珀が編み出した、図鑑を使って妹を映し出す方法は、とても小さくて、ささやかなもの。
この作品は、その小さきものと切ないもので満たされている。
非難されるべき母親でさえ、哀れで同情を誘う。
年老いた琥珀が、図鑑を使った展覧会をやり続けるのは、決して自由ではなかった日々でも、かけがえのない日々がそこにあったから。人は、今を生きていても、過去の思い出がその人の今を作っているのだと感じた。


# by mint-de | 2017-03-28 15:38 | 私の本棚 | Trackback

14歳

我が家のワンコは、ついに14歳になった。
見た目は元気だが、体はかなり衰えてきた。
14年というのは、結構長い年月だ。
食べて、散歩して、寝る。
それが彼の一日。ずっとそれだけの日々。
周囲の音や匂いに反応しているときもあるが、時々、哲学者が思索しているかのように、庭を見つめていたりする。一体、何を思っているのだろう?
顔をなでてやると、もっとなでろと顔を寄せてくる。
私は、ただなでてやる。

人間と犬。言葉が通じなくとも一緒に暮らせる不思議な関係…
公園を一緒に散歩する私も、彼と同じように年をとっていく。
14年前の自分と今の私。家族を何人か失い、いろんなことがあった。
忙しくとも、天気が悪くとも、犬と一緒に歩いた日々。
何年もたって、犬を飼わなくなったら、きっと犬との日々を懐かしく思い出すのだろう。
公園の木々の葉や花の色、季節を告げる風の音。四季それぞれの日々。
これからも犬の幸せを願いながら、見守っていきたいな。
# by mint-de | 2017-03-26 14:18 | 記憶の鞄

「女医フォスター 夫の情事、私の決断」

AXNミステリーの一挙放送で全5話を見た。とても面白かった。
夫の浮気を知った妻の心情が丁寧に描かれていて、愛情、怒り、苦しみなど、信じていた者に裏切られた複雑な妻の思いが、胸に迫ってくる。

医師のジェマは仕事に誇りをもち、家庭では夫のサイモンと息子と暮らし、充実した日々を送っていた。ところが、ある時、愛する夫の浮気を知ってしまう。20代の若い女との不倫。その時から、ジェマの苦しみが始まる。
ドラマはあくまでもジェマの視点で描かれるので、ちょっと気位の高い彼女ではあるけれど、ジェマに同情してしまう。夫の浮気を疑うようになってからの行動は、クールなミステリードラマ的な展開で、結構、緊張感のあるドラマになっている。
何組かの夫婦が登場するが、夫が浮気をするのは男の性でしょうがない面もあり、それを認めてやれる妻は結婚生活を続けられるのだとか。
同時に二人の女を愛せるといい、浮気はしていないと嘘をつき続けるサイモンを見ていると、男ってこういう所があるのかも、などと思ってしまう。
印象に残ったのは、ジェマが元の上司と会話するシーンで、愛する者を亡くした悲しみより、愛する者に裏切られた悲しみのほうがつらいというジェマの言葉。それは違うという気がするけれど、それぞれの悲しみを比べることなどできないのだと思う。
サイモンにトドメの一撃を与えた後、ジェマはやっと前を向いて歩きだすことができるのだった。

これでドラマは終わったと思っていたら、英語版のウィキにはシーズン2の情報が。次にもサイモンが出るらしい。私は、彼はもう出てこなくていいと思っているのだけれど(笑)
どういう展開になるんだろう? 続きが早く見たいな。
# by mint-de | 2017-03-14 15:39 | 海外ドラマ(英A~F) | Trackback

クロッカスが咲いた

日差しに春の暖かさを感じるようになった。
庭の花も咲き始め、花の色に気持ちも明るくなる。
世の中、いろんなことが起きている。
その中でも、森友学園の問題には呆れるばかり。
ああいう所でも、子どもを通わせたい親がいることに更に驚く。
日本人でも、実にいろんな人がいるのだなあと、いまさらながら思うこの頃。


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# by mint-de | 2017-03-07 14:32

素晴らしきかな、人生


素晴らしきかな、人生 (2016年 アメリカ映画)

昔の映画にも同じタイトルがあるけれど、まったく関係ない。
原題は「COLLATERAL BEAUTY」
豪華キャストが出演しているわりには、地味な内容で、見る人によって評価が分かれる映画だと思うけれど、私はこういうのが好き。
ラスト、主人公がイブを共に過ごす相手が、誰だったか分かると、ジーンとくる。
広告代理店の経営者ハワードは、6歳の娘を病気で失ってから、仕事への意欲もなくなり自暴自棄の毎日で、会社の経営も危うくなる。
彼を心配する同僚たちは、彼に立ち直ってもらうべく、ある策を練る。
人生とは、時間と愛と死でできている。そう語ったハワードの三つの言葉がキーポイント。
命あるものにとって避けられない死。それでも愛があれば生きていけるし、時間はすぐに失われていくけれど、時を経ることによって癒やされることもある。
ハワードの趣味がドミノ倒し。作るのに時間はかかるけれど、倒れるのは一瞬。それでもまた再生できる。人生を象徴しているのかもしれない。
# by mint-de | 2017-02-27 13:36 | シネマ(あ~そ) | Trackback

『探検家、40歳の事情』

『探検家、40歳の事情』(角幡唯介 文藝春秋)

探検の裏話や若いころのとんでもない話を綴ったエッセー。
探検記とは違って笑いながら読めた。でも、タイトルにもある「無賃乗車」には、そこまで書いていいのかと、ちょっと驚いた。
北極の旨いものランキングにでてくるシロクマやほかの動物の味、生の肉に含まれるビタミンの話など、牛や豚、鶏肉しか食べたことのない人間には、「へえ~」とか「ゲッ」とかいいそうになる記述もある。
そして、イヌイットと犬の話には、切なくなるけれど、生きていくことの厳しさを知らされる。人間も動物も命がけなのだと思う。
こういう本を読んでつくづく思うのは、自分が知っている世界がいかに小さいかということ。食や習慣や文化など、私の価値観とはまったく違う世界で生きている人が、世界にはいっぱいいるのだ。
自分が知ることのできない人々や動物、自然の姿など、せめて、こういう本を読んで知っていきたいと思う。だから、角幡さんにもこれからも無事に探検に出かけてもらいたいと思う。
# by mint-de | 2017-02-01 15:46 | 私の本棚 | Trackback

「沈黙―サイレンスー」

遠藤周作は、『沈黙』を書くきっかけについて触れている『切支丹の里』(中公文庫)の中で、拷問や死の恐怖にも屈服せず殉教した者を「強者」、逆に肉体の弱さから棄教した者を「弱者」とし、その「弱者」の悲しみや苦しみに思いをはせたとき、彼らを沈黙の灰の底に消してしまいたくなかった、「弱者」の物語を書くことが小説家である自分の仕事であり、文学とはそういうことを描くことであるといっている。
宗教間の対立で戦いが起きる現代にあって、殉教者を「強者」といってしまうことには抵抗があるが、過去のあの時代、貧しい暮らしの中でキリスト教の教えに心の平安を見出した人たちにとっては、拷問で命を落としても魂が「パライソ(天国)」に落ち着くのは、苦痛の後に喜びが待っていると信じられたのだろう。
だが、拷問される信者たちの苦しむ姿を目の当たりにした宣教師の苦悩は、彼等より深かったといえる。ロドリゴやフェレイラは、棄教してからどういう気持ちで日本にいたのか?
信じてきた神を表面上は裏切った彼らだが、心の奥ではずっと信じていただろうと、私には思えてならない。
それにしても、ここまで切支丹を弾圧する幕府側が怖い。人が信じるものをお上が決めるなんてもってのほか。国を治めるために利用される宗教ほど恐ろしいものはない。
信仰心のない私だけれど、命までも危険にさらされる宗教って何? と問わずにはいられない。
(2017年 アメリカ・イタリア・メキシコ映画 監督マーティン・スコセッシ)
# by mint-de | 2017-01-26 14:35 | シネマ(た~ほ) | Trackback

日の出

久しぶりに犬と朝の散歩。
ちょうど日の出の時刻で、橙色の大きな太陽を見る。
遠い遠い宇宙のかなたから、あたたかな光を送ってくる太陽。
そのはるかな距離を想像することができないほど離れているのに、その遠さをあまり意識せずに見ている太陽。つかの間、とても不思議な感覚にとらわれる。
大いなる宇宙の広さを思うと、なんて小さな地球。
その小さな大地の点より小さな原っぱを歩く私とワンコ。
小さい小さいと思っていたら、小さな姉弟に挨拶される。
山道ですれ違うときにお互いに「こんにちは」と挨拶するように、パパが私を見て挨拶したので、それを真似したらしい。恥ずかしそうにでも嬉しそうに挨拶する姿に、こちらも思わず笑顔になる。
日の出と小さな姉弟が心に残った今日の朝。
# by mint-de | 2017-01-22 15:26 | 木陰日和

見たり聞いたり、日々思うことをあれこれと…


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