『ひとり暮らし』から

谷川俊太郎の『ひとり暮らし』(新潮文庫)を読んでいて、「惚けた母からの手紙」に、ちょっと驚いた。
谷川さんは、「母が一貫して父への愛に生きた人であることが痛いほどわかる」と書かれている。
ご両親の結婚前の往復書簡をまとめた『母の恋文』という本を出されているから、お母さんのお父さんへの愛については、よく知られている話なのだろう。
お父さんは哲学者の谷川徹三だが、外に女の人がいたこともあったらしい。
お母さんは、老いて惚けてからも、この裏切られた記憶に苦しんでいたという。
ときどき、谷川さんの机の上にそのお母さんが書いたメモのようなものが残されていて、その一部が載っているのだが、悟るべき年の人がこんな風に鬱々と悩んでいたなんて、ものすごく可哀相だなあと思うと同時に、その情熱のようなものに驚いた。
そのメモに返事を書いたお父さんのものも載っている。
「世界中で私の最も愛しているのはあなただ、その愛を疑うなんて」と。
ウ~ン、何だかすごい「愛の物語」を感じてしまう。
谷川さんご自身は、三度の結婚、離婚を経て今はひとり暮らしをされている。
誰にも気兼ねする必要のないひとり暮らしが気楽でいいと語っている。
ご両親の話を読んでいると、愛ゆえに悩むより、老後は、ひとり暮らしのほうがラクな気はするな。
by mint-de | 2010-02-11 19:16 | 私の本棚