『ロスト・シティ・レディオ』

『ロスト・シティ・レディオ』 (ダニエル・アラルコン 藤井 光訳 新潮社) 

戦争がもたらすもの、国家とは何かを、深く考えさせられる小説だ。
現在と過去が交錯しながら語られるので、まるでジグソーパズルのピースをあちこちに埋めながら読んでいるような気分になる。そういう構成が謎を深め、独特の緊張感を生んでいると思う。

内戦が終わってから10年後のある国家の首都。
ノーラはラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」のパーソナリティーだ。
行方不明者を探すその番組で、ノーラは不明者に呼びかけ、幾組もの感動の再会があった。
ラジオから流れるノーラの声は、国民に愛されていた。
ある日、ラジオ局にジャングルの1797村から、行方不明者のリストをもったビクトルという少年がやってくる。
そのリストには、消息を絶ったノーラの夫レイの名があった。
不法集団ILの犯罪者として弾劾されている夫は、一体何をしていたのか?
その日から、ノーラはビクトルと共に過ごすことになった…

謎めいたレイの過去。レイは何を求めていたのか?
人民の平和を求めて戦った、その戦いとは何なのだろう?
意志した者、ただ巻き添えをくらった者。
犠牲にしたもの、失ったもの、得たものはあったのか?
国家とは、人民を傷つけるために存在するのではないかと思えるようなやるせなさ。
それでも、人々はささやかな日常を生きていくのだ。
クールな文体がより寂寥感を増しているように思った。

5年前の作品だが、作者は30歳でこの作品を完成させたのだ。
その力量と才能には驚くばかり。今後が楽しみだ。
by mint-de | 2012-04-04 21:40 | 私の本棚