『長いお別れ』

『長いお別れ』 (中島京子 文春文庫)

認知症の父とその父を10年間介護した家族の小説だ。
アメリカでは、認知症の症状が少しずつ記憶をなくして、ゆっくり遠ざかって行くので「ロンググッドバイ」と呼ぶのだとか。
作者は、ご自身のお父様を介護した経験が、この小説を書くきっかけになったという。
介護を扱ったものは、どうしても苦労とか嘆きとか暗い印象をもってしまいがちだけれど、この小説は、そういう暗さがない。
そこには、父を大事に思いできる範囲でできることをするといった、とてもシンプルな家族愛が描かれていると思う。
何度も同じことを聞く父親に対して、ちゃんと答え続ける家族。
つらいことはいっぱいあるけれど、一番混乱しているのは病人自身なのだ。介護はしんどいことではあるけれど、なるべく明るい気持ちで接することが大切なのだと教えられた気がする。
父親がよく口にする「家に帰りたい」という言葉が切ない。
家にいてもそう言うのは、病気のせいで、どこにいても以前の居心地の良さが得られなくなってしまったからかもしれない。自分が一番落ち着ける場所、自分の居場所がない、そういう気持ちで最後の日々を過ごすなんて、とても悲しい。
「老い」についても、いろいろ考えさせられた。

by mint-de | 2018-06-20 15:02 | 私の本棚