『ガラスの城の約束』

『ガラスの城の約束』 (ジャネット・ウォールズ 古草秀子訳 早川書房)

こんな親がいるのかと、驚きながら読んだ。
子への愛情はあるのだけれど、親としての責任感がまるでない。
お金がなくなったら、食事はない。ポップコーンだけ、ブドウが手に入ればブドウだけ、学校に弁当を持っていけないときは、誰かが捨てた食べ残しをゴミ箱からあさる。
それでも、子どもたちは、たくましく生きていく。
読みながら、親には呆れるけれど、子どもたちにはひたすら感心した。
2005年にアメリカで出版されベストセラーになり、今は、日本で映画も公開されている。
当時、記者として活躍していたジャネットの子ども時代の実話である。
夢ばかり求め、職に就いてもすぐ辞めたり首になる父。自らをアーティストと称する母は、子どものために自分を犠牲にすることに耐えられない。
驚くのは、母には遺産があるのにそれを活用しようとしないこと、そして教員免許を持っているのに、嫌々仕事をして結局辞めてしまうのだ。大人になれない子どものような母。父は次第に酒ばかり飲むようになる。
それでも、この両親には不思議な魅力といってはおかしいけれど、なんだか教えられることもある。
他人には頼るな、自分の道は自分で切り開くのだといったしつけをしているのだ。自分たちはどうなんだと言い返したい部分もあるが、子どもには過干渉は絶対よくない、子どもに考えさせる教育が大切。父親の常識はずれの言動も、言い得て妙なところもある。
過酷な環境で育ったにも関わらず、子どもたちが立派に成長したのは子どもたちの努力もあるけれど、そういう土台を両親が作ったともいえるのかもしれない。
決して肯定できるような育て方ではないけれど、本を読む限り、著者は両親を恨んでいるようには思えない。
どんなときにも前向きな子どもたちの姿に、何だか冒険物語を読んでいるような気持ちにもなる。

(ノンフィクション作家・梯(かけはし)久美子さんの巻末の解説から)
「親を選ぶことはだれにもできない。どんな親の元に生まれるかは究極の「運」である。自分の責任ではないものを、生涯にわたって背負い続ける不条理を、人はどう生き切るのか。本書はそれを、勇敢で美しい、真実の物語としてわたしたちに見せてくれる」
by mint-de | 2019-06-16 16:01 | 私の本棚