『千の輝く太陽』

『千の輝く太陽』 (カーレド・ホッセイニ 土屋政雄訳 早川書房)

『君のためなら千回でも』のカーレド・ホッセイニの長編。
今回は、二人の女性が主人公だ。
アフガニスタンに生まれ、ソ連軍の侵攻、内戦、タリバンの支配と、過酷な状況を経験しながらも強く生きていく女たちの物語。ただでさえ不自由な生活なのに、女ということで、更に窮屈な生き方を強いられる女たち。それでも、ただ激流にのみこまれるのではなく、本文の言葉を借りると、「乱流に品格を磨かれる」女として、成長していくのだ。
あまりにも辛いシーンが多くて、しばらく読めない日もあったが、後半は一気に読み、とても感動した。

主人公のマリアムとライラは、対照的だ。マリアムは、どちらかというと、耐えることで自分を保っているような古いタイプの女性で、ライラは、そういう生き方をしてほしいという、作者の希望を体現したような女性として描かれている。

辛い話が多いけれど、決して暗くないのは、平和だった頃の生活や美しい風景、優しい隣人たちの話に、温かさを感じるからだろう。無駄のない文章と細やかな心理描写。訳文の上手さもあるのだろうけれど、とても読みやすい。アフガニスタンの生活ということに興味がいってしまうけれど、親と子、男と女、命、といった人生の普遍的なテーマを描いているという意味でも、面白い小説だと思う。
タイトルの「千の輝く太陽」は、17世紀のカブールを歌った詩の一節として、本文にでてくる。

屋根また屋根に揺れる月を誰が数えられよう
塀また塀に隠れる千の輝く太陽を誰が数えられよう


というもの。私の勝手な解釈は、それぞれの生活は、月のように、太陽のように、美しく素晴らしい。その素晴らしさを数えることなんてできないし、それぞれの幸せは、限りなくあるのだというような、日々の生活賛歌の歌なのだと思う。
そんな日々が戻ることを願っている作者の思いが、このタイトルに込められているのだろう。
by mint-de | 2009-01-30 15:04 | 私の本棚