カテゴリ:私の本棚( 80 )

『世界の果てのこどもたち』

『世界の果てのこどもたち』 (中脇初枝 講談社文庫)

戦中・戦後を生き抜いた3人の少女たちの物語。
過酷な状況のなかでも、懸命に生きた彼女たちの心の優しさに感動する。
高知の貧しい村から「分村」で満州にやってきた珠子。友達になった朝鮮人の美子(ミジャ)と横浜の貿易商の娘茉莉。あるとき、3人は大雨にあい身動きがとれなくなって、不安な時間を過ごすことに。
そのとき、美子は自分の持っていたおにぎりを三つに分けて、一番大きいものから茉莉と珠子に渡し、自分は一番小さいのを取った。その行為を、珠子と茉莉はその後の人生の糧にするのだ。
どんなにつらい状況でも、前向きに優しい心を忘れずに生きる。
珠子も茉莉も戦後はつらい人生を送ることになる。戦争がなければそういう人生ではなかったはずだ。美子も故郷で生きることができただろう。
戦後、珠子たち満州の開拓移民が日本へ帰るために歩いて移動するシーンには、言葉がない。
なんと残酷なことだろう。

この本とは関係がないけれど、あるテレビ番組で「戦争に行けといわれたらどうするか」というインタビューをしていた。そのなかで、「日本を守るためなら行く」と答えた人たちがいたけれど、私ならそういう答え方はしたくない。「戦争は無意味です。武力で解決するのではなく、話し合いで解決を目指す。そういう考え方をしてほしい。軽々しく戦争に行きますかなんて質問はしないでください」

作者は、韓国や中国に何度も取材にでかけ、年表を作り、泣きながら原稿を書いたとどこかのサイトで読んだ。参考文献の書籍もすごい量だ。
作者の構成力にも感心した。
by mint-de | 2018-08-12 15:53 | 私の本棚 | Trackback

『光の犬』 


『光の犬』 (松家仁之 新潮社)

久しぶりに物語の世界にどっぷりと浸れる小説を読んだ。
犬を亡くした後で、こういうタイトルの本が自分の手元に届いたことが(図書館の順番待ち)なんだか不思議で、そういうこともあって夢中で読んでしまった。
北海道東部の町で暮らす家族三代の物語。
その家で飼われていたのが北海道犬で、家族に寄り添うように描かれている。
人は、生まれそして死んでいく。自分の意思とは関係なく。
多分、この小説は思いのままにならない生と死の間のつかの間の人生を、肯定的に描きたかったのだと思う。
好きな音楽や趣味、北海道の大自然、大いなる宇宙、神。
人は、それぞれ自分の人生を支えてくれるものを求めて生きていく。
家族一人ひとりの人生が淡々と描かれていて、読後感は、水彩画を眺めているような感じがした。
by mint-de | 2018-07-25 20:49 | 私の本棚 | Trackback

『長いお別れ』

『長いお別れ』 (中島京子 文春文庫)

認知症の父とその父を10年間介護した家族の小説だ。
アメリカでは、認知症の症状が少しずつ記憶をなくして、ゆっくり遠ざかって行くので「ロンググッドバイ」と呼ぶのだとか。
作者は、ご自身のお父様を介護した経験が、この小説を書くきっかけになったという。
介護を扱ったものは、どうしても苦労とか嘆きとか暗い印象をもってしまいがちだけれど、この小説は、そういう暗さがない。
そこには、父を大事に思いできる範囲でできることをするといった、とてもシンプルな家族愛が描かれていると思う。
何度も同じことを聞く父親に対して、ちゃんと答え続ける家族。
つらいことはいっぱいあるけれど、一番混乱しているのは病人自身なのだ。介護はしんどいことではあるけれど、なるべく明るい気持ちで接することが大切なのだと教えられた気がする。
父親がよく口にする「家に帰りたい」という言葉が切ない。
家にいてもそう言うのは、病気のせいで、どこにいても以前の居心地の良さが得られなくなってしまったからかもしれない。自分が一番落ち着ける場所、自分の居場所がない、そういう気持ちで最後の日々を過ごすなんて、とても悲しい。
「老い」についても、いろいろ考えさせられた。

by mint-de | 2018-06-20 15:02 | 私の本棚 | Trackback

『極夜行』

『極夜行』 (角幡唯介 文藝春秋)

以前、世界で最も北にある町として、ノルウェーの北に位置するロングイェールビーンという町を紹介するテレビ番組を見たことがある。
そこでは、10月下旬から2月中旬まで太陽が昇らない極夜が続くという。
私は、曇り続きで晴れた日がないだけで、憂鬱になるタイプなので、とてもこのような町には住めないと思った。なので逆に、そういう場所でも暮らしていける人たちは、どういう精神状態なのだろうとずっと思っていた。だから角幡さんの今回の探検記がその極夜がテーマだったので、とても興味深く読んだ。
北緯77度47分のグリーンランド・シオラパルクから極夜の闇の中、月の光やヘッドランプの明かりを頼りに、一匹の犬とそりをひきながら3か月間極寒の地を歩く。
「極夜の闇を経験してから太陽を見る」という目的で始めた探検は、事前に、食料などをルートの途中に置いておいたのに、白熊にほとんど食い荒らされていたり、とんでもない暴風に何度も遭遇したりして、トラブル続き。食料が尽き、最悪の場合は旅を共にした犬を食べれば何とかなると、考えるまでになる。
薄明かりの中で見る氷の大地は、宇宙の別の惑星のようだという描写に、その光景が目に浮かぶようだった。
困難を乗り越えて、やっと太陽を拝める日がきた。
「太陽は太陽として、あるがままの姿でそこにあった」
やはり、日の光を知っている人間は太陽がなくては生きてはいけないのだ。
私の一番の感想は、ワンちゃん食べられなくてよかった!(^^)
それにしても北極圏に生きる犬は、とんでもない風が吹くブリザードでも外にいて耐えているということに、驚いた。
そして、探検家も何をするか、目的や場所探しも今のような時代ではなかなか難しいらしい。それでも、探検家として生きていく角幡さんには、これからも未知なる世界を旅して、私たちの知らない世界を教えていただきたいと思う。
by mint-de | 2018-03-07 14:28 | 私の本棚 | Trackback

『羊飼いの暮らし』

『羊飼いの暮らし』 (ジェイムズ・リーバンクス 濱野大道訳 早川書房)

羊飼いの仕事に興味があるわけではないけれど、「イギリス湖水地方の四季」というサブタイトルにひかれて読んでみた。
著者の羊飼いという仕事への情熱と誇り、生まれ育った土地への愛着、そういった事柄が生き生きと描かれていて、読後はさわやかな思いに包まれる。
600年も続く牧畜を生業とした家の長男として生まれた著者は、幼いころから祖父や父の仕事を見てきた。羊飼いとして生きていくことに迷いはなかったけれど、父と衝突したことから、一時は家を離れオックスフォード大学で学ぶ。
卒業後は、ひたすら家業に励むけれど、やはり羊を育てるだけでは経済的に無理がある。そこで、ユネスコの仕事を手伝ったりしているという。
厳しい冬、羊たちの出産ラッシュ、穏やかな春、四季折々の自然の美しさ。
自然と動物が相手の仕事は、様々な困難が伴う。それでも、先人たちの知恵や周囲の協力で乗り越えていく。
大変な仕事だとは思うけれど、効率とか便利さとは無縁の世界に、私はちょっぴり憧れてしまう。

永遠の時が広がる山は、人間にぞくぞくするような喜びを与えてくれる。私がとりわけ好きなのは、自分よりも大きな何かに包まれているという感覚だ。自分以外の手や眼を通して、時間の深さに遡っていく感覚だ。山で働くことは、山を征服することではない。山は人を謙虚にさせ、人間の尊大さや勘ちがいを一瞬のうちに根こそぎにする。」(本文から)
by mint-de | 2017-10-30 16:11 | 私の本棚 | Trackback

『琥珀のまたたき』

『琥珀のまたたき』 (小川洋子 講談社)


切なさに満ちた幻想的な小説だ。
母親から、壁の外に出てはいけないといわれた3人の姉(オパール)と弟(琥珀、瑪瑙)。
末娘の死を受け入れられない母親は、娘の死を魔犬に襲われたせいだという。その話を聞かされた姉弟たちは、家の敷地から出ることを禁じられる。
母親が仕事に出かけると、3人は父が残した図鑑から社会を学び、庭で遊びながら自然に触れる。奇妙な生活だが、3人はそれなりに日々を生きていくのだ。
限られた空間を、想像力を使ってきらめく一瞬にする。
琥珀が編み出した、図鑑を使って妹を映し出す方法は、とても小さくて、ささやかなもの。
この作品は、その小さきものと切ないもので満たされている。
非難されるべき母親でさえ、哀れで同情を誘う。
年老いた琥珀が、図鑑を使った展覧会をやり続けるのは、決して自由ではなかった日々でも、かけがえのない日々がそこにあったから。人は、今を生きていても、過去の思い出がその人の今を作っているのだと感じた。


by mint-de | 2017-03-28 15:38 | 私の本棚 | Trackback

『探検家、40歳の事情』

『探検家、40歳の事情』(角幡唯介 文藝春秋)

探検の裏話や若いころのとんでもない話を綴ったエッセー。
探検記とは違って笑いながら読めた。でも、タイトルにもある「無賃乗車」には、そこまで書いていいのかと、ちょっと驚いた。
北極の旨いものランキングにでてくるシロクマやほかの動物の味、生の肉に含まれるビタミンの話など、牛や豚、鶏肉しか食べたことのない人間には、「へえ~」とか「ゲッ」とかいいそうになる記述もある。
そして、イヌイットと犬の話には、切なくなるけれど、生きていくことの厳しさを知らされる。人間も動物も命がけなのだと思う。
こういう本を読んでつくづく思うのは、自分が知っている世界がいかに小さいかということ。食や習慣や文化など、私の価値観とはまったく違う世界で生きている人が、世界にはいっぱいいるのだ。
自分が知ることのできない人々や動物、自然の姿など、せめて、こういう本を読んで知っていきたいと思う。だから、角幡さんにもこれからも無事に探検に出かけてもらいたいと思う。
by mint-de | 2017-02-01 15:46 | 私の本棚 | Trackback

『米国人博士、大阪で主婦になる。』


『米国人博士、大阪で主婦になる。「The Good Shufe」』 
(トレイシー・スレイター 高月園子訳 亜紀書房)

とても面白かった。
思い描いていた人生とはまったく異なる暮らしをすることになった女性が、迷い、悩みながらも、愛する男性と生きる道を選択した、その手記だ。
英米文学の博士号をもっている彼女は、アメリカで講師として学生などに教えていた。あるとき、東アジアで報酬のいい仕事を依頼される。日本にはまったく興味がなかった彼女だったが、生徒である日本人の会社員と恋に落ちてしまう。
周囲からは、海をまたいだ超遠距離の恋愛には反対されるが、彼との愛を確実に育んだ彼女は、10年の歳月の後に、二人の愛の結晶である娘を授かる。
冷静に自己分析をしながら行動する姿には、自立した大人の女性を感じるが、一方で、誰かに依存した生活など考えもしなかった女性が、180度違う人生を歩むことになる戸惑いにも、共感してしまう。
人生は、思い通りにはいかないこともあるが、それでも、自分が幸せになるために、自分に大切なものは何かを追求してあきらめなければ、居心地のいい場所を得ることができるのだと、教えられた気がする。
異国に住む不自由な気持ちや疎外感、いろいろ悩みながらも、彼女は、日本人の嫁でさえできないような義父の介護に懸命になる。入院した義父を見舞うのに、面会時間の初めから終わり(6時間)までいたという彼女には、驚いた。義父とのやりとりには涙が出るシーンもある。
そして、40歳過ぎてからの不妊治療、流産、あきらめたときに授かった新たな命。つらい時を乗り越えて、こういう本を書き上げた彼女は、精神的にとても強い人なのだと思う。これからの彼女の人生にも興味がわくので、ぜひ続編も書いていただきたいと思う。
by mint-de | 2016-12-27 15:39 | 私の本棚 | Trackback

『その罪のゆくえ』

『その罪のゆくえ』 (リサ・バランタイン 高山真由美訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

切なさに満ちた小説だった。
少年ダニエル(ダニー)はヤク中の母から引き離され、里親の元に預けられていたが、その反抗的な態度から里親を探すのも困難な状況になっていた。
そんなとき、農場のミニーという女性がダニーの里親になってくれることに。
はじめは、反抗的で母のもとに帰りたがっていたダニーだったが、ミニーの寛容で温かな愛に包まれていくうちに、ダニーは今まで経験したことのない穏やかな暮らしを知るようになる。
そして里親から養母となったミニーから、将来の夢をもつことの大切さを教えられたダニーは勉強にも励み、大学へ。
だが、あるときダニーはミニーのついた嘘を知ってしまう。それは、ダニーにとって決して許すことができない嘘だった。そのときから、二人は会うことはなかった。
切ないのは、ダニーがミニーの死を知ってから、自分がとった態度が間違いだったと気づき、そのことをミニーに伝えられないということだ。ミニーの愛の深さがやるせないのだ。

ロンドンで事務弁護士をしているダニーは、殺人容疑の11歳の少年セバスチャンの弁護を依頼される。その少年に会ったダニーは、自分の少年時代を思い出す。その後、家に帰ったダニーは、ミニーの死の知らせを受け取る。
物語は、セバスチャンの事件とダニーの少年時代が交互に描かれていく。
イギリスでは、10歳から大人並みに刑事責任を問われてしまうのだそう。
著者は、実際の事件からヒントを得たようだが、このセバスチャンはこのまま大人になったらとても怖いと思うのだが、ダニーとはまったく違う家庭環境でも、外見は恵まれているように見えても、愛のない家庭というのは脆いものなのだろう。

セバスチャンの母の頼りなさに、自分の母の姿を重ねてしまうダニー。
小さい頃は、あんな母でも自分が母を守ろうと必死の思いでいたが、大人になったダニーは、自分を大切に思ってくれた人が誰だったか、今、弁護士として働けるのは誰のおかげだったかと考えたとき、ミニーに対する申し訳なさで胸がいっぱいになるのだった。
劣悪な環境で育ったとしても、ひとすじの明かりのような愛があれば、人はまっとうに育つと信じたい。
by mint-de | 2015-09-15 14:56 | 私の本棚 | Trackback

『ブエノスアイレスに消えた』

『ブエノスアイレスに消えた』 (グスタボ・マラホビッチ 宮﨑真紀訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

アルゼンチンのミステリ。とても面白かった。読みだすとやめられなくなる(^^)
ベビーシッターと共に出かけた4歳の娘が、突然行方不明になる。父親のファビアンは、あてにならない警察には頼らず、私立探偵と共に娘を捜そうとする。
事件から9年後まで描かれるのだが、その間のファビアンの苦悩、喪失感、再生しようとする気持ちが丁寧に描かれ、とても共感できる。
ファビアンが、ほんの小さな手がかりから犯人へとたどり着く過程にも感心。
真相を求めて、奥地へと川を遡っていくシーンなどは、南米の密林の雰囲気がよくでていて、波の音が聞こえてきそうな描写だった。
ラストには、衝撃の事実が待っているのだが、父と娘の微妙な関係も気になるところだ。
訳者あとがきによると、建築家のファビアンなのだが、今後は失踪人捜しの探偵になるのだとか。いつ頃読めるのかはわからないけれど、次作も楽しみだ。
by mint-de | 2015-07-08 21:06 | 私の本棚 | Trackback

見たり聞いたり、日々思うこと。


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