碧草の風

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カテゴリ:私の本棚( 78 )

『ジーノの家』

『ジーノの家 イタリア10景』 (内田洋子 文藝春秋)

イタリアに長く住む著者が出会った印象的な人々の物語。
エッセーでありながら、描かれた人々の話がまさに十人十色で小説を読んでいるような味わいがある。
貧しい暮らしながら父の望む教師になった男、十字を切ればすべて意のままになると確信している強引だけれど心優しいシスター、異国の地でたくましく生きる女性、定年後に帆船に恋した男のロマン。
登場人物たちが生き生きと描かれ、その人生の背景に思いを馳せたくなる作品になっている。
内田さんはあとがきで「名も無い人たちの日常は、どこに紹介されることもない。無数の普通の生活に、イタリアの真の魅力がある」と書いている。
普段見かける人々の様子を「生活便利帳を繰るようであり、秀逸な短編映画の数々を鑑賞するようでもある」とも書いていて、私は、自分の周囲の人々をそんな風に捉えられる内田さんを素敵な方だなと思った。
by mint-de | 2011-09-24 20:57 | 私の本棚 | Trackback

『特捜部Q -檻の中の女―』

『特捜部Q -檻の中の女―』 
    (ユッシ・エーズラ・オールスン 吉田奈保子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

デンマークのミステリ。ユーモアたっぷりで面白かった。
事件そのものは陰惨なのだが、主人公の警部補カールと助手のシリア人アサド、そのコンビの描写がとても軽妙で、思わず笑ってしまうミステリなのだ。
大体、カールその人が不思議な男。別居中の妻に愛人がいても、妻が離婚に応じないのでそのままの関係が続き、お金も援助している。彼女の息子が母といたくないという理由でカールの家にいるのだが、その義理の息子は母同様勝手気まま。カールは、それなりに不平をいいつつも、そういう関係を改善しようとは思っていない様子。
なおかつ、カールはとても頑固者。ある事件がもとで、新設の過去の未解決事件を解明すべくできた「特捜部Q」に左遷のような形で配属されたものの、警部になるのは嫌なので、上司の命令を聞かずあくまでもマイペースで仕事を進める。助手のアサドは謎の部分が残っているのだが、名探偵ホームズ並みの推理力でカールの仕事を助ける。

カールの特捜部の初仕事は、5年前に失踪した女性議員ミレーデ・ルンゴーの事件。
読者は、監禁されているミレーデ自身を最初から知ることになるのだが、とんでもない状況にいる彼女なのだが、その強い精神力には驚かされる。
米・英のミステリとは違った味わいで、暗さを感じさせない小説だ。4作目まで出版されているというこのシリーズ、今後も楽しみだ。
by mint-de | 2011-08-07 09:20 | 私の本棚 | Trackback

『背後の足音』

『背後の足音』   (ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 東京創元社)

クルト・ヴァランダー・シリーズの7作目。
糖尿病になってしまったのに、同僚たちには、ちょっと血糖値が高いだけだとごまかすヴァランダーさん。
そんなに病気を認めたくないなら、もう少し食生活を改善すればいいのにと思うけれど、ハンバーガーやピザばかり食べていて、読んでいるこちらが気持ち悪くなってきた(^^;)

今回は、「扮装」が一つのテーマ。普段の自分ではない誰かに変装することで、人としてのバランスをとる人たち。ヴァランダーには理解できないことだけれど、人は別の誰かにならなくとも、素のままでも、他人を理解することは難しいのではないだろうか。
ヴァランダーの同僚が殺された。その同僚のことを調べているうち、ヴァランダーは、仕事をずっと一緒にやってきたのに、彼の私生活を知らなかったことに気づく。
自分はどれだけ同僚のことを理解していたのだろう?
その同僚は他の者に、ヴァランダーのことを親しい友だといっていたと聞き、驚くヴァランダー。
同僚の死後、扮装した若者たちが遺体で見つかる。二つの事件には関連性があった。しかし、なかなか犯人につながるものが見つからない。焦るヴァランダー。その上、やたらのどがかわき体の調子が悪い。
病気なのに大変だなあと思いながら読んでいたので、エピローグでほっとした(^^)
ヴァランダーが嘆くように、事件を起こした犯人の動機は不可解だ。
この間のノルウェーの事件のように、何の咎もない人間を無差別に殺す理由が、そこまでする理由が理解できない事件が多い。
こんな時代に、ヴァランダーのような刑事は、やりきれない思いを抱きながら捜査するのだろうなと、その仕事の大変さを思った。
by mint-de | 2011-07-30 11:11 | 私の本棚 | Trackback

『闇の記憶』

『闇の記憶』 (ウィリアム・K. クルーガー 野口百合子訳 講談社文庫)

(元)保安官コーク・オコナー・シリーズの5作目。今回も面白かった!
コーク自身が命を狙われ、家族も危険にさらされ、事件はナゾを残したまま続編へと続く形になっている。
一人で逃亡するはめに陥ったコークの今後がとても気になる。

保安官に復帰したコークは、ある日、保留地からの通報で現場に駆けつけたが、そこで狙撃されてしまう。
それはコークの命をねらったウソの通報だったことがわかる。
その後、弁護士である妻ジョーが仕事で関わりのあった男が殺害された。
そして、その男の兄はジョーの昔の恋人だった。
ジョーとかつての恋人との再会、またコークをたびたび救うことになるセキュリティ・コンサルタントのダイナとコークの関係も興味深く描かれている。
ダイナがコークの本当の味方なのかどうかはわからないので、そのへんのナゾも気になる。
次作は今年の12月刊行予定。早く読みたいな。
by mint-de | 2011-07-05 14:48 | 私の本棚 | Trackback

『黄昏に眠る秋』

『黄昏に眠る秋』 (ヨハン・テオリン 三角和代訳 早川書房)

面白いミステリだった。
スウェーデンの作家だが、イギリスでも新人賞をとっていて、この作品は世界20か国以上で翻訳されているという。

スウェーデンのエーランド島。ある霧の深い日に一人の少年が消えた。
それから20年以上たっても、少年は行方不明のままだった。
息子の不在を嘆きながら生きてきたユリアのもとへ、疎遠だった父イェルロフから連絡が入る。
少年のサンダルが何者かから送られてきたと。
ユリアは、久しぶりに夏だけにぎわう避暑地エーランド島に帰ることにする。
かつて過ごした家に今は誰もいない。秋風が冷たい過疎の町。
すぐに島から出るつもりだったユリアだが、息子の事件を追ううちに、次第にその心に変化が起きてくる。
寒い冬を待つだけのシーズンオフの風景が、ユリアの心情をよく表している。それでも、事件の真相がわかる頃には、ユリアにも新たに生きようとする気持ちがわいてくる。そして、父と娘の関係にも新たな信頼感が生まれてくる。
ミステリながら、アットホームな雰囲気あふれる作品だ。それと、病気で体の自由がきかない老イェルロフの名探偵ぶりが微笑ましかった。
ユリアやイェルロフが犯人かもしれないと思う、犯罪者ニルス・カントの話が所々で挿入される展開で、彼のナゾが徐々に明らかになっていく様子も興味深かった。
意外な人物が犯人で、ラストは「えっ?」
エーランド島の自然も魅力的に描かれていて、作者は四季の4部作を書く予定で、すでにほかの2作を完成させているらしい。他の作品もぜひ日本語で読みたいものだ。
by mint-de | 2011-06-23 15:04 | 私の本棚 | Trackback

『馬を盗みに』

『馬を盗みに』 (ペール・ペッテルソン 西田英恵訳 白水社)

2003年にノルウェーで出版され、国内外で高い評価を受けた作品だ。
67歳のトロンドは、ノルウェーの東のはずれにある湖畔で、一人で暮らしている。
厳しい冬の生活や老いていく身に不安を感じつつも、彼は魚を釣り薪を割り、長年思い描いていた場所で一人で(&犬)暮らしていた。
あるとき、隣人と話をして、彼は15歳の少年時代を思い出すのだった。
スウェーデンとの国境近くの小さな村で、父と過ごした夏の日々。
美しい自然、きらめく夏の光、馬を盗みにいこうと誘った友、村の人々。
干し草刈り、伐採、材木流しといった肉体労働の描写も実に生き生きとしている。
加えて、レジスタンス活動をしていた父の謎の行動。
少年トロンドは、父の帰りを待ち続けたが、その後父と会うことはなかった。
この小説には、結果がすべて書かれてはいない。ストーリーがあるようでない不思議な魅力がある。
15歳の夏と、冬の湖畔で一人暮らす67歳のトロンド。
その違いは、50年という歳月からくるものだとしても、どちらの世界もとても印象的に描かれている。
どんな風に生きたとしても、「痛いかどうかを決めるのは自分自身なのだ」
by mint-de | 2011-03-10 15:07 | 私の本棚 | Trackback

『行かずに死ねるか!』世界9万5000km自転車ひとり旅 

『行かずに死ねるか!』世界9万5000km自転車ひとり旅 (石田ゆうすけ 実業之日本社)

サラリーマンをやめ、7年半をかけて世界9万5000kmを自転車で旅した石田さん。
旅の風景やそこで出会った人々への感動が生き生きとつづられていて、とても魅力的な旅行記だ。
気に入った景色の場所を訪れると、何日も滞在してしまうなんて、とてもうらやましいけれど、自転車ひとり旅というのは、それなりにリスクが伴うし孤独な旅だろう。砂漠のど真ん中で一人テントで過ごすなんて、私には到底できそうにない。
石田さんはこの旅で、生き抜く力を「経験という大きな財産を通して培われ、養われたように感じる」と書いている。
旅先で出会った人々との交流も、この本の魅力だ。
片足が義足の女性と一緒に歩き、彼女のスピードで見えるものに気付かされたり、食べ物を買うとまけてくれるおじさんやおばさんたち。テントの場所を探していると寒いからといって、家に誘って食事をごちそうしてくれる人もいる。炎天下でバテバテで歩いているとき、通り過ぎた車がわざわざUターンして水を分けてくれたり。強盗に襲われたときもあるが、出会った人々の好意的な態度に、世界には優しい人々がいっぱいいるのだと信じる気持ちになれる。
旅そのものが生きる目的になる、そんな旅ができる人がうらやましいな。(幻冬舎文庫もある)
by mint-de | 2011-02-16 13:57 | 私の本棚 | Trackback

『フランキー・マシーンの冬』

『フランキー・マシーンの冬』 (ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 角川文庫)

フランクはサンディエゴの海を眺めながら釣り人に餌を売り、時には波に乗り、時間があれば恋人と過ごす二人の時間を楽しんでいる。
生活の質にこだわり、日常のささいなことに意味があると思っている。
娘からコレステロールに気をつけるように言われている62歳の身ながら、サンディエゴの海と空と風に満足している。
しかし、フランクには別の顔があった。彼は伝説の殺し屋だったのだ。
その道から足を洗っていたものの、ある日、自分が狙われていることに気付き、ひたすら逃げるはめに。
逃げながら過去を振り返りなぜ狙われるのか考え、襲ってくる敵をかたづけていくのだが、いろんなマフィアや悪人が登場して殺しの場面が多いわりには、あまり陰惨な感じがしなかった。
フランクが最後にどうなるのかと気になって、あっという間に読んでしまった。
政府や有名企業がやっていることのなかには、犯罪者集団がやっていることと変わらないものもあるというフランクの持論に、妙に納得する自分がいたりする。
自分がなぜ狙われるのかわかった時点で、フランクは別の事件を解決することになる。
不死身のフランクがとても魅力的で、『犬の力』とは違い、軽妙なミステリになっている。
by mint-de | 2010-10-06 15:40 | 私の本棚 | Trackback

『五番目の女』

『五番目の女』 (ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 創元推理文庫)

クルト・ヴァランダー・シリーズの六作目。
父親と一緒にローマを旅してきたヴァランダーは、その思い出にひたる間もなく、残忍な方法で殺害された男たちの事件を捜査することに。
進展しない捜査、突然の父の死。
雨ばかり降る秋のイースタは、ヴァランダーの心を日増しに重くしていた。

連続殺人を解決できない警察に不満をもった市民たちのなかからは、自警団までできてしまう。
同僚の刑事の娘は、自警団に影響された生徒たちに襲われてしまい、ヴァランダーは暴力に支配される社会を嘆く。
読者は犯人を最初に知らされているので、犯人の詳細や動機はわからないけれど、ヴァランダーたちの捜査が、早く犯人にたどりつかないかとやきもきしながら読み進めることになる。
著者のマンケルさんは、本当にうまい作家だなあと思う。読み始めると、後を引くお菓子のようにやめられなくなるのだ(^^)

ヴァランダーたちの地道な捜査、同僚たちの暮らしぶりやチームワーク、時折恋人のバイバに思いをはせるヴァランダーの姿には、ホームドラマのような味わいがある。
犯人には、母親のことを思うと同情の余地がないわけではないが、彼女がそこまでする動機にはちょっと違和感が残った。

訳者の方のあとがきを読んで驚いたのだが、マンケルさんは今年の5月、イスラエル軍に攻撃されたパレスチナへの救援物資運搬船に乗っていたという。有名な作家でありながら行動する作家でもあるようだ。こういう経験が、作品へのエネルギーになっているのかもしれない。
by mint-de | 2010-09-13 15:00 | 私の本棚 | Trackback

『ぼんやりの時間』

辰濃和男さんの『ぼんやりの時間』(岩波新書)を読んだ。
ぼんやりすることの大切さを語り、豊かな休息があるからこそ、創造的な力や生命力がはぐくまれると説いていて、とても共感できる。その中で、考えさせられる文章があった。
ターシャ・テューダーの生活に触れ、どんなに忙しくても時間がきたらお茶を飲む、その休みのひとときがあるからこそ疲れがあとに残らないのだろう、そのことは、「いい静があるからこそ、いい動が生まれるのではないか。いい休みがあるからこそ、いい働きが出てくるという面もあるのではないか。暮らしの中心にあるのは、むしろ静であり、休みである。たのしい休みや、幸せな静があるからこそ、創造的な動や働が生まれるのだ。そう思えてならない。」 と、辰濃さんはいっているのだ。
ただ、忙しいから休むというのではなく、休むことが主となる考え方に驚いたが、確かにそういう生活ができたらゆとりが生まれる気はする。ライオンは、狩りをするときに備えて、普段はじっと静かにしている。クマはエサのない冬は冬眠する。自然が支配するこの地球上に存在する人間以外のものは、静の生活から勢いのある動を生み出していると考えられる。人間は、自然に逆らった生き方をした結果、ストレスを抱えるようになったのかもしれない。
忙しく暮らしている人には、静が中心の生活なんて考えられないだろうし、ぼんやりする時間がある人は、それだけ恵まれた生活をしている人といえるだろう。でも、忙しくて時間がないといい続けていたら、一生ぼんやりする時間はできないと思う。どんなにハードスケジュールでも、どんなに貧乏でも、頭をからっぽにしてぼんやりする。心に余白があればあるほど、多様な考え方を受け入れることができ、遊び心が生まれる。そこから興味が増えて人間的に豊かになる。そんな気がする。
根っからの貧乏性の私には、なかなか「ぼんやりの時間」を楽しむ境地にはなれないけれど、そういう時間を増やしたいなと思ったのだった。
by mint-de | 2010-07-06 19:34 | 私の本棚 | Trackback